ジャズが聴こえる

私の好きなジャズレコード、ミュージシャンの紹介や、ジャズにまつわる思い出話などを綴っていきます。

Round Midnight(映画)

 

ラウンド・ミッドナイト(字幕版)

このブログでは基本的にレコード・CDの紹介をしているのですが、今回は映画です。
1986年公開の『round midnight』について書いてみます。
主演はサックス奏者のデクスター・ゴードン、その他、著名なジャズメンが出演しています。音楽担当はハービー・ハンコックです。

『Round Midnight』Warner Bros. 1986年)

【cast】

Dexter Gordon=Dale Turner
François Cluzet=Francis Borler
Gabrielle Haker=Berangere
Sandra Reaves-Phillips=Buttercup

上には主なCastを上にあげましたが、なんといっても出演しているジャズメンの顔ぶれが豪華です。主だった出演ジャズメンの顔ぶれを挙げてみると…

セリフがかなりあって出演者としても出番が多いのは、主演のデクスター・ゴードン(ts)はもちろん、ハービー・ハンコック(pf)、ボビー・ハッチャーソン(vib)です。
ウェイン・ショーター(ts,ss)は少しだけ。
その他ライブやレコーディングの演奏シーンでは、ロン・カーター(bs)、フレディー・ハーバード(tp)、トニー・ウィリアムス(ds)、シダー・ウォルトン(pf)などなど。

デクスター・ゴードンなどは、本当に素晴らしい演技です。演技ではなく、地なのでしょうか。それにしても、じっくり見入ってしまいます。ハービー・ハンコックもそうです。

ですが、この映画のお勧めする理由は、まず映画として素晴らしい内容だからです。ジャズファンを喜ばせるだけの映画ではありません。ジャズメンが多数出演しているので、ジャズファン向けの映画と思われるかもしれませんが、そんなことはないのです。ジャズを聴いてこなかった人にもおすすめです。
一人の芸術家の生き方、どうしても逃れられない苦しみ、そして「家族」というものも大きなテーマになっています。
アルコールに依存して、破滅的な生き方を続ける主人公のサックス奏者、デイル・ターナー。彼を支える熱狂的なファンのフランシス。そのフランシスと彼の娘との関わりも、この映画の大きな見どころであり、いろいろと考えさせてくれるところです。

もちろん、ハービー・ハンコックが担当した音楽も素晴らしいです。
メインテーマの曲は「Round Midnight」なのかもしれませんが、サブテーマ曲ともいえるオリジナル曲「Chan'sSong」も、とてもいい曲です。
Chanというのはデイルの娘の名前で、この曲が披露されるシーン、そしてラストにビッグバンドアレンジで演奏されるシーンは、どこか切ないメロディと相まって印象的です。
ところで今回この記事を書くにあたって、クレジットを英語版Wikipediaで再確認したら、この「Chan's Song」のクレジットが、Stevie Wonder, Hancock、になっているのです。
スティービー・ワンダーとハービーの共作だった?!
私はスティービーが音楽に参加しているとは知らなかったので、手元にあるDVDやサントラ盤のCDで改めて確認したのですが、どちらにも作曲者のクレジット自体が載っていません。またネットで探しても、その情報はでてきません。
本当にスティービーが作曲に参加していたのでしょうか。だとしたら、もっと騒がれててもようさそうです。英語版Wikipediaは、大変詳しくジャズの情報が掲載されているので、嘘ではないと思うんですが…なんとも分かりません。相変わらず昔のジャズには不明なことや、謎情報が多いです。

それはともかく、とにかくお勧めです。
私は映画館でも何度か見て、DVDも買って、かれこれ何10回とみてる気がします。
何度見ても素晴らしい映画だと思います。

京都三条河原町、ジャズ喫茶「BIG BOY」の日々~モリちゃん、うどん事件~

1980年代、私が学生時代にアルバイトをしていた、京都三条河原町近くのジャズ喫茶「BIG BOY」での日々を綴ります。


モリちゃんは、私がBIG BOYに入店する少し前に辞めていました。だから、一緒に働いていたことはないのです。
だけど、モリちゃんは辞めた後もよく店に遊びには来ていました。そしてBIG BOYの仲間に誘われて入ったバンドに、モリちゃんも参加していたので、顔なじみになっていきました。

モリちゃんは確か私の2つ3つ上だったと思います。アルトサックスを吹いていました。
みんなだいたい、「モリくん」「モリちゃん」と呼んでいましたが、BIG BOYでの公式(?)ニックネームは「バード」でした。

モリちゃんのアイドルは、チャーリー・パーカーなのです。だから恐らくこれは、モリちゃん自身がバードと呼んで欲しくて、自己申請したニックネームなのだと思います。
だけど、「バード」だとカッコよすぎるし、ちょっと恐れ多いのではないかと皆感じたのでしょう。「バード」ではなく「鳥(とり)」と呼ばれていました。
なんだかんだで、「モリくん」「モリちゃん」と呼ばれ、たまに「鳥」と呼ばれていたのです。さすがに「バード」と呼ばれるのを聞いたことは、私はなかったです。

モリちゃんとは、一緒にバンドをやっていた以外は、ほとんどプライベートで一緒に行動することはなかったのですが、ある出来事があり、そのおかげ(?)でモリちゃんは私にとって忘れられない存在になりました。

BIG BOYの仲間に誘われた、モリちゃんも参加していたバンドは、「せんきれバンド」というバンド名のファンクバンドでした。そして、ホーンセクションがみなBIG BOYのバイトスタッフでした。トランペットのクマさん、テナーサックスのモトヤス君、アルトサックスのモリちゃんです。
リズムセクションは、大学生がほとんどでした。そのリズムセクションに私がキーボードとして誘ってもらえたのです。

ベースが京都府立医科大学の学生で、バンドの練習はいつも府立医大の練習室を使っていました。
そんな縁もあり、府立医大の学祭に出場したのです。
その時の演奏など、全く忘れてしまったのですが、打ち上げの席だけはしっかりと記憶に残っているのです。

打ち上げは府立医大の学園祭に出店していた模擬店テントで行いました。
打ち上げと言うか、演奏が終わった流れで、そこら辺の模擬店のテントに潜り込んで、酒盛りを始めたのです。
そこでモリちゃんと、ある出来事が起こりました。

何が発端かなのかは覚えていません。
喧嘩が始まったわけでもありません。
モリちゃんも私もみんなも機嫌がよく、しこたま酔ってハイになっていました。
そんな中、私は飲みながらうどんを食べていました。
モリちゃんが何か面白いことを言ったのか、もしかしたら私をいじって、からかったのかもしれません。
私はそれに対して腹が立ったわけではないのです。
全く逆で、何だか楽しくなってしまい、思わず食べていたうどんのプラスティック製ドンブリを、モリちゃんの頭にかぶせたのです。

見事にスッポリと、まるで帽子のように、ドンブリはモリちゃんの頭にはまりました。そのかぶせた感覚、情景は、よく覚えています。
一瞬、時間がとまったように思えました。
麺と汁が飛び散り、ドンブリを被ったモリちゃんの顔には、うどんが垂れ下がり、汁が垂れ落ちたのです。

次の瞬間、モリちゃんは「こーいつぅぅぅー!!」と叫んで立ちあがりました。私は身の危険を感じて、急いで逃げたのです。

「まぁーてぇぇえーー!」
悪魔のような叫び声をあげて、モリちゃんが追いかけてきます。私は府立医大の構内を必死で逃げまわります。そして、植え込みの中に身を潜めたのです。モリちゃんが叫び声をあげて通り過ぎていきました。

普段のモリちゃんは、とても穏やかで、いつもニコニコしていました。
バンドの練習中も、みんなが熱くなって、険悪な空気になりそうな時は、間に立ってみんなを落ち着かせるようなタイプでした。
そんなモリちゃんが、あれだけ叫び声をあげて怒ったのだから、それは大変なことです。
あの怒り様では、簡単には収まりそうにない。そう思った私は、かなり長い時間、植え込みに潜んでいました。

やがて、頃合いを見てテントに戻ってみました。
そうしたら、みんな普通に酒盛りを続けていました。モリちゃんもタオルを頭からかぶり、戻ってきた私を見つけると、「かなわんなぁ~、もぉ~」と言ってきました。いつもの温厚なモリちゃんに戻っていて、私はホッとしたのです。
そんな温厚なモリちゃんだから、私も甘えてそんなことをしてしまったのでしょう。それにしても、もし出来立ての熱々だったら、頭と顔にやけどをしていたかもしれない。今にして思うと、とんでもないことです。

そんなモリちゃんは、BIG BOYが閉店して、やがて私が京都を離れた後も、20年近く毎年、年賀状を送り続けてくれました。
その年賀状も何年か前には途絶えました。
けれど、今でもドンブリを被せられたモリちゃんの姿は、はっきりと思い出せるのです。

The Great Pretender(レスター・ボウイ)

Great Pretender

今、どれくらいの人がレスター・ボウイのことを知っているでしょうか。私の世代だと、かなりインパクトを持って記憶しているジャズファンも多いかと思います。
アバンギャルドなイメージが強いレスター・ボウイですが、ECMレーベルから出されたこのアルバムは、聴き心地もよく、でもレスター・ボウイの良さも存分に発揮されています。

『The Great Pretender』ECM 1981年)

Lester Bowie(tp)
Hamiet Bluiett(b-sax)
Donald Smith(pf,org)
Fred Williams(b)
Phillip Wilson(ds)
Fontella Bass(vo)
David Peaston(vo)

【収録曲】
#1 The Great Pretender
#2 It's Howdy Doody Time
#3 When the Doom (Moon) Comes Over the Mountain
#4 Rios Negroes
#5 Rose Drop
#6 Oh, How the Ghost Sings

知ったかぶって書き出してしまいましたが、私はそれほどレスター・ボウイを聴きまくったわけでもありません。とにかく、このアルバムが好きなのです。いえ、もちろんレスター・ボウイも好きですよ。
とにかく、このアルバムはお勧めしたいですし、忘れ去られてほしくない良いアルバムだと思います。

ECMレーベルというと、キース・ジャレットの作品が多数リリースされているので有名です。独特の透明感のあるサウンドがあり、選曲やアルバムタイトル、ジャケットも、表現として妥当かどうかわかりませんが、親しみやすいものが多いですね。
変な表現をしましたが、私はそんなECMが大好きです。アーティストをプロデュースする力が素晴らしいのでしょう。

レスター・ボウイもアート・アンサンブル・オブ・シカゴでの活動に象徴されるような、アバンギャルド演奏家と思われる人も多いかと思います。私もそうでした。

例えばブリジット・フォンテーヌの『ラジオのように』に参加した演奏などです。このアルバムもインパクトがあって、記憶にある人も多いのではないでしょうか。
ちなみにこんなジャケットです。思い出した人もいるのでは?

ラジオのように

そういうレスター・ボウイが、「The Great Pretender」というプラターズのポピュラーな曲を演奏し、アルバムタイトルにしてリリースしたわけです。
それにECMサウンドが相まって、難解な演奏というレスター・ボウイのイメージが薄れています。つまり、とても聴きやすいアルバムなんですね。私もこれで、はまってしまいました。

聴きやすいアルバムですが、トランペットという楽器を様々な演奏法を駆使して、独自のサウンド、歌い方を聞かせてくれるところは、レスター・ボウイそのものです。
もっともレスター・ボウイ自身の演奏は、「アバンギャルド」といわれることが多いですが、ルイ・アームストロングを敬愛していたというように、実際は伝統的なプレイが基本になっていると感じます。
この『The Great Pretender』というアルバムを聴くと、様々な表現手法をとって前衛的なプレイも聴かせてくれるのですが、それだけではない、伝統的なジャズ・ミュージックに根差している、と感じさせてくれます。

ちなみにこのアルバムを知ったのは、私が学生時代、京都のジャズ喫茶「BIG BOY」でアルバイトをしていた時でした。
店の同僚だった、モトヤス君に教えてもらったのです。仕事が終わったあと、閉店した店に居残って、モトヤス君にこのアルバムを聴かせてもらったのです。
それ以来、これまでずっと、私の愛聴盤です。

※モトヤス君と「BIG BOY」のことは以下の記事に書いてあります。 

my-jazz.hatenablog.com

京都三条河原町、ジャズ喫茶「BIG BOY」の日々~エルビンまさかのシャケ行為~

1980年代、私が学生時代にアルバイトをしていた、京都三条河原町近くのジャズ喫茶「BIG BOY」での日々を綴ります。


クリスマスイブに、エルビン・ジョーンズ京都市内でライブをおこなう、という情報が流れ「BIG BOY」内は色めき立ちました。
もちろん、みんな大好きで憧れているドラマーです。何しろあのコルトレーンと一緒に活動をともにしていたのです。

まず、問題になったのはバイトのシフトでした。ライブの日のシフトに入ってしまえば、当然ライブにはいけません。バイトメンバー内での落書き帳のような「せんきれ帳」へ、書き込みが相次ぎました。その日はライブに行きたい、行かせてくれアピールが始まったのです。

そもそもシフトは誰が決めていたのか、今一つ覚えていません。
この「BIG BOY」に関する一連のエッセイでは、あまり登場せずに影が薄いのですが、「ダンさん」と呼ばれていた店長なる存在はいたので、ダンさんがシフトを組んでいるたのだとは思いますが、長くいる年長のアルバイトが中心に考えて、ダンさんが承認する感じだった気もします。

みな様々な理由をつけてアピールしました。そのアピール合戦の後、ともかくライブの日のシフトは決定しました。
私もライブに行きたかったのですが、一番新入りだし、まだまだジャズも詳しくなく、他のスタッフのほうが何倍も行きたいだろうから、ライブは諦めてシフトに入るつもりでいました。
ところが、サプライズ的に私はシフトから外され、チケットをプレゼントされたのです。私の誕生日が近かったことがあり、「行きたい、行きたい!」と激しく主張していなかった私を、あえてライブに行くメンバーに加えてくれたのです。これはとても嬉しいプレゼントでした。
手元にある「せんきれ帳」によると、ライブに行ったのは私とタモさん、クマさんの三人でした。

ライブは確か岩倉かどこか、とにかく市中心部から外れたライブハウスで行われました。
ライブの内容は覚えていません。ただ、演奏が終わったあと、サイン会があったことを覚えています。そこで、自分たちが「BIG BOY」というジャズ喫茶の店員だという話をしたのです。するとエルビンは興味を持ってくれて、私たちの店に行ってみたいと言ってくれたのです。
これには驚いて、みな喜びました。エルビンが店に来てくれれば、今日、泣く泣くシフトに入ってライブに来れなかったメンバーへ、最高のプレゼントになります。
会話のやり取りは、日本人の奥様、ケイコ夫人が間にたってくれました。

そして、その日のライブの後、私が「せんきれ帳」書いた内容が以下のものです。

はい!いってまいりました。エルビンいってまいりました。
こう本格的(?)なライブは初めてでしたが、すっごいパワーに圧倒されてしまった。
なんか、こむつかしいことはわからないけど、パンパンパパーンとたいこの皮がやぶれんばかり。
まっかなズボンにガウンにたいのをはおってね。
そんでもって、すごく楽しそうに、うんうんHappyつうのね。
いやー、高橋さん(多分サックスの高橋知己さん)も顔、真っ赤にして。
で、27日PM6:00、エルビン夫妻来店です。
ほんと、気さくな人ね。ばりばりよかった。
10:30に始まって、4曲、そしてクリスマスソング、12:00ごろ終了、サイン会でした。1時過ぎ、タモさんと店を出たら、雪がちらちら。バド夫妻からのマフラーをして、ほんと、美しい、美しいイブでした。

興奮しているのは分かりますが、何だか幼くて恥ずかしいですね。
ライブが10:30からとあるけれど、昼だったのでしょうか。ちょっと記憶がありません。夜だとしたら、だいぶ遅い時間です。
ともあれ、三日後の27日にエルビンが来店してくれることになり、その期待に店は大変な盛り上がりをみせました。

エルビン来店の知らせは、常連さんたちにも伝えられました。当時は今みたいに、スマホSNSもないから、電話連絡、もしくは直接会って、連絡が回せる人には回してもらいました。
そして当日、サインをもらおうとレコードや色紙を片手にスタッフや常連さんが「BIG BOY」に集まって、エルビンの登場を待ち構えたのです。

ところが、約束の時間を過ぎても来ないのです。
ミュージシャンだから遅れることもある、と待っていましたが、来ません。
どれくらい待ったでしょうか。常連さんたちも、一人また一人と席を立っていきました。

なにか、やり取りの中で誤解があったのかもしれませんが、この日のことは「エルビン、まさかのシャケ行為」として、「BIG BOY」の歴史に刻まれることになったのです。

※「シャケ行為」についてはこちらをご覧ください。

my-jazz.hatenablog.com

 

Green Dolphin Street(ビル・エヴァンス)

 

グリーン・ドルフィン・ストリート

 ビル・エヴァンスフィリー・ジョー・ジョーンズとの共演が聴きどころのアルバムです。あと、ジャケットも素敵ですよね。
録音は7曲目だけ1962年で、他は1959年です。

『Green Dolphin Street』(Victor Music Industries Inc. 1977年)

Bill Evans(pf)
Philly Joe Jones(ds)
Paul Chambers(b)<#1~#6>
Ron Carter(b)<#7>
Jim Hall(gt)<#7>
Zoot Sims(ts)<#7>

【収録曲】
#1 You and the Night and the Music
#2 My Heart Stood Still
#3 Green Dolphin Street
#4 How Am I to Know?
#5 Woody 'n' You(Take 1)
#6 Woody 'n' You(Take 2)
#7 Loose Bloose

さて、演奏内容とは関係ない話からひとつ。
この録音は「Reverside」のレーベルで行われています。ですが、なぜか「Reverside」からはリリースされず、後の1977年に発売されたようなのです。
Wikipediaでこのアルバムのレーベルを調べてみると、日本語の「ビル・エヴァンス」のページには「Reverside」、英語の「Bill Evans discography」のページには「Milestone」、英語の「On Green Dolphin Street (Bill Evans album)」のページには「Victor Music Industries Inc.」とあります。
録音したレーベルと、発売したレーベルが違うのでこうなったのですかね。ごめんなさい、よくわからないです。大した問題じゃないですよね。
ただ、私の中では、エヴァンスのプレイ、レコードの音質も含めて「Reverside」の作品と認識しています。
ちなみに、Wikipediaでは日本語・英語サイトともに、アルバム名は「On Green Dolphin Street」なのですが、ジャケットには「Green Dolphin Street」と「On」がないので、私はそれに合わせて書きました。正式には「On」が付くのかもしれませんね。まあ、これも大した問題ではないのですが、昔のジャズのアルバムは、色々わからないことが出てきて大変です。

さて、私の好きな「Reverside」時代のエヴァンスですが、この演奏は「Reverside」時代の作品の中でも、ちょっと違うな、と思わせるような演奏です。
その原因は、やはりフィリー・ジョーがドラムとして参加していることにあるのでしょう。

フィリー・ジョーの私が好きなところは、ハイハットとブラシですが、その良さが随所に聴かれます。
まず1曲目、「You You and the Night and the Music」の出だしからしてそうですよね。
その、グルーブ感あふれるブラシワークにのって、エヴァンスも歌いまくっている印象です。

私が若いころ、エヴァンスを聴きだしたときに感じたのは、ソフトなピアノタッチという印象でした。しかし、それは全く聴けていなかったのですよね。ただ単に、イメージだけで捉えてしまっていたのでしょう。
きちんと聴けば、エヴァンスのタッチは、なんというのでしょう、「しっかり鍵盤の底を打っている」とでも言いうのがピッタリなタッチです。そして何より、リズムに乗ってグルーブして歌う、そこには力強さも感じます。

3曲目の「 Green Dolphin Street」にも、そういうエヴァンスが表れています。
特に特に、テーマが終わってドラムがブレイクして、エヴァンスがコードソロで入っていくあたり、そしてそれに続いてのソロ、素晴らしいです。これはフィリー・ジョーの効果なのでは、と思います。
私は何度、このテーマから続くソロを聴いたことでしょう。
もう、最高ですよ。

京都三条河原町、ジャズ喫茶「BIG BOY」の日々~夜更けのセッション~

1980年代、私が学生時代にアルバイトをしていた、京都三条河原町近くのジャズ喫茶「BIG BOY」での日々を綴ります。


BIG BOYには店の奥に、JBLのスピーカーに挟まれる感じで、アップライトピアノが置かれていました。
以前はライブをやったこともあるらしいのですが、私が働いていた時は営業中にそのピアノが弾かれることはありませんでした。

店の営業が終わるのが午前2時。遅番の時はその後、バイト仲間と店に残ってお酒を飲んで過ごすことがありました。
朝まで飲み明かし、よく音楽の話をしました。もちろん音楽以外にも様々な話をしましたが、あまり覚えていません。音楽以外の話はだいたい、たわいもない、バカっ話だったと思います。
覚えているのは、店が閉めた後のカウンターで、真剣に語ったり、バカな話をして大笑いしたりした、あの時に自由な空気です。

自由というと、あいまいな表現になってしまい、何か私の記憶に残っているあの時の感覚と離れてしまう気もするのですが、他の表現が思いつきません。
自分は何でもできる、何物にもなれる感覚とでもいうのでしょうか。勿論、自分に才能があると感じていたわけではなく、むしろその逆で、その当時の私は自分に自信がなく、将来に対してもたまらなく不安だったのですが、自由としか今は表現が思いつかない、晴れ晴れとした、生き生きとした感覚を、その時の私は、あの地下の店内で感じていたのです。

特に同じ年のモトヤス君とは、よく居残って飲み明かしました。彼は一つのことに取り組むと、徹底的に突き詰めていくタイプで、私にとってはジャズの大先輩でした。
閉店後の店内で、彼のサックスを吹かせてもらったり、店にあるアップライトピアノを弾いたりして、セッションもしました。
セッションと言っても、私はまだスタンダード曲もよく知らなない、ジャズピアノの超初心者だったから、セッションなどとは呼べないでしょう。ある時は店内にあるグラスや金属製品をたたいて鳴らして、楽器と一緒にフリースタイルの演奏のまねごとをしまたのです。
酔っぱらいながら、そのようなセッションまがいのことをするのは、とても楽しかったのです。グラスをチーンと鳴らして、耳を澄ませてそれにピアノの音を合わせていく…。そんな遊びをよくやりました。

閉店後、語り合ったり、レコードを聴いたり、セッションもどきのことをしたり、そうして朝まで過ごす日が多くなりました。大学生の私は当然、大学には足が向かなくなってしまいました。
もっともっと音楽を聴きたい、知りたい、そして演奏したい気持ちが強くなっていったのです。

京都河原町の地下にある、BIG BOYという穴倉が、私の生活の中心になりつつありました。

Piccolo(ロン・カーター)

Piccolo

私は1960年代生まれで、ジャズを聴きだしたのが1980年前後からなんです。
まだ若かったころのことです。そして若かったころに聴いた音楽は、歳をとっても忘れられないものが多い気がします。
この『Piccolo』も私がジャズを聴き始めた若いころ、話題に上がっていたアルバムでした。

『Piccolo』(Milestone 1977年)

Ron Carter(piccolo bass)
Kenny Barron(pf)
Buster Williams(b)
Ben Riley(ds)

【収録曲】
#1 Saguaro
#2 Sunshower
#3 Three Little Words
#4 Laverne Walk
#5 Little Waltz
#6 Tambien Conocido Como

なんでいきなり若い頃のことに触れるのかというと、私がこのサイトで紹介するアルバムは、1970年代後半から80年代にかけてのものが、どうしても多くなってしまうからです。つまり私が若かりし頃に話題になっていたアルバムですね。それと50年代60年代の、いわゆる「名盤」です。
逆に90年代以降のジャズは、私はあまり詳しくないと思います。
そんな偏りがある選び方では、このブログを見た人にとってあまり参考にならないのかもしれません。

ですが、1980年のころ、私がよく聴いたアルバムやミュージシャンが、だんだん忘れられていくのじゃないか、特に素晴らしい演奏が埋もれていってしまうとしたら、とても残念なんです。

この『Piccolo』もそうです。
どうなんでしょう。今も、このアルバムを聴いている人、知っている人は、どれだけいるでしょうか。発売された当初は、ジャズファンの中ではよく知られていたと思うのですが。
でも、とてもいい演奏なんです。だから、私の個人的な偏りはあると思いますが、これからも残っていってほしいと思って取り上げてみます。

前置きが長くなってしまいました。

このアルバムはベースにバスター・ウィリアムスが参加しています。通常のアンサンブルでのベースパートは、ほとんど彼が担当して、それにロン・カーターがからんでいる感じです。

私が一番このアルバムで「凄い!」と思うのは、ピアノのケニー・バロンとバスター・ウィリアムスです。その二人に、さらにロン・カーターが絡んでくる。本当に圧巻です。

例えば#1「Saguaro」のケニー・バロンのソロです。2ビート気味のゆったりとした入りから、4ビートそしてダブルタイムになってからが強烈です。後乗り気味に歌うバロンに対して、突っ込み気味に入っていくウィリアムス、それに奔放に絡むロン・カーター。もう、よく演奏が崩壊しないよな、と思うくらい、各々が自由に歌いまくってます。
つまり、各々がしっかり「自分の足で立っている」演奏です。
一人一人が自分の中のビートをしっかり刻んでいて、そしてアンサンブルとしてグルーブしている、もうジャズの真骨頂ではないでしょうか。
#3「Three Little Words」もそうです。すごいドライブ感です。頭、おかしくなっちゃいそうです。

生身の人間同士がぶつかりあう、ジャズの楽しさが存分に味わえる演奏です。
こんな演奏が、埋もれていってしまうとしたら残念極まりないので、紹介させてもらいました。

ちなみに私はこのレコードがきっかけで、ケニー・バロンが好きになり、色々な演奏を聴いたのですが、やはり私にとってはケニー・バロンとバスター・ウィリアムスのコンビが最高ですね。