ジャズが聴こえる

私の好きなジャズレコード、ミュージシャンの紹介や、ジャズにまつわる思い出話などを綴っていきます。

8:30(ウェザー・リポート)

8:30

ウェザー・リポートは、ジョー・ザヴィヌル(key)とウェイン・ショーター(ts)によって1970年に結成されました。シンセサイザー等のエレクトロニクス楽器を駆使した、いわゆるフュージョン系バンドでしょうか。
ですが、その当時や、それ以後出てきたフュージョンバンドに比べると、私が思うジャズの要素がかなり大きく、「フュージョン」というくくりに入れるのは、私は若干抵抗はあるのです。

このウェザー・リポート、ザヴィヌルとショーター以外はメンバーは変わっていきますが、私が好きなのは、そしておそらく一番有名なのは、ベースにジャコ・パストリアスがいた、1976年から1981年までです。
そしてこの『8:30』は、そのジャコが在籍していた時のライブ録音を中心としたレコードです。
ちなみに読み方は「エイト・サーティ」です。「はちじはん」でもいいのかもしれませんが、あまり聞かないですね。

『8:30』(Columbia 1979年)
Joe Zawinul(key)
Wayne Shorter(ts・ss)
Jaco Pastorius(b)
Peter Erskine(ds)
【収録曲】
#1 Black Market
#2 Scarlet Woman
#3 Teen Town
#4 A Remark You Made
#5 Slang
#6 In a Silent Way
#7 Birdland
#8 Thanks for the Memory
#9 Medley: Badia/Boogie Woogie Waltz
#10 8:30
#11 Brown Street
#12 The Orphan
#13 Sightseeing

上記のクレジット以外に、一部メンバーはパーカッションをはじめとする他の楽器も演奏しています。また、一部の曲には記載しなかったメンバーも加わっていますが、主だった演奏楽器やメンバー以外省略させてもらいました。

まあ、このアルバムはジャコの演奏に尽きるのではないでしょうか。
いや、ジャコが参加してからのウェザーは、もうジャコの演奏が際立ってしまって、申し訳ないのですが、リーダーであるべきザヴィヌルやショーターがかすんでしまう感じです。

ジャコのオリジナル「Teen Town」、ジャコのソロ「Slang」、どちらももう、あまりよくない表現かもしれませんが、ジャコの狂気に近い演奏に圧倒されます。
有名な「Birdland」にしても、ザヴィヌルの作品なのですが、ジャコのプレイにまず耳がいってしまいます。「もう、カンベンして!」と言いたくなるぐらいに、熱く燃え上がる演奏です。
いえ、「Birdland」だけではなく全編を通して、もうジャコがバンドを支配している感じすらします。

しかし、同じ時期のライブ動画もネット上で見ることもできるのですが、そこでみるザヴィヌルの様子や演奏は、天才的な若きベーシスト、ジャコ・パストリアスを押し上げてきた張本人はザヴィヌルではないのか、と想像させてくれます。
サヴィヌル親分が用意してくれた舞台で、思う存分暴れるジャコ、そしてその若く激しい演奏に触発されるのを楽しんでいるザヴィヌル、といった印象を私は受けます。

まあ、とにかくすごい演奏です。
ジャコは1981年にウェザー・リポートを脱退して、以後ソロ活動を行っていましたが、精神状態の悪化や数々の奇行で活動の場を失っていきます。そして1987年、35歳の若さで悲劇的な最期を迎えます。
ウェザー在籍が6年ほど、その後6年ほどで死を迎えたことになります。ウェザーでのジャコは、バンドにとっても、彼にとっても一番の時期だったのではないでしょうか。

京都三条河原町、ジャズ喫茶「BIG BOY」の日々~クマさん~

1980年代、私が学生時代にアルバイトをしていた、京都三条河原町近くのジャズ喫茶「BIG BOY」での日々を綴ります。


「BIG BOY」のバイト店員は、みな個性があって印象的でした。
その中で、「クマさん」と呼ばれていた彼は、私の2~3歳年上で、トランペットを吹いていました。

そもそも、なぜクマさんと呼ばれていたかというと、レコードを聴いている姿からきたのです。腕を組み、目を閉じてうつむきながら、リズムに合わせて首を振る、そんな姿が熊のようだから、という理由でした。

親しみを込めて呼ぶときは「クマ」「クマさん」でしたが、ののしったりするときは「シャケ」でした。
これは木彫りのクマがシャケを咥えていることから由来していて、言い合いをしているときなどは「なに言うとるんや、シャケ!!」みたいな感じでした。

クマさんは、かなり裕福な家の育ちだったらしいですが、お父さんが事業に失敗したか何かで借金の取り立てに会い、一家離れ離れになって逃げまわっている、という話でした。
クマさんも取り立てに追い回されている、という噂がありました。
そんなわけで、クマさんには帰る家も自分のアパートもなかったみたいで、彼女の部屋にいるか、友人宅を転々としているようでした。
一度だけ私のアパートにも泊まっていったことがあります。何を話してどう過ごしたか覚えていませんが、朝起きたときにはクマさんはもういなくて、テーブルの上にクマさんが吸っていたショートホープが置いてありました。目立つように置いてあったから、一泊したお礼のつもりだったのかもしれません。

そんな不安定な生活をしていたけど、クマさんはとても明るく、一方で感情も激しく、よく人と衝突もしていました。
そしてトランペットは京都市内でも一目置かれる存在でした。
私の通っていた大学のジャズ研究会にも、学生ではないのに入り浸って、ジャズ研のビッグバンドではホーンセクションのまとめ役みたいでした。
一方私はジャズピアノを練習し始めていたのですが、大学のジャズ研には所属していませんでした。クマさんに「一度のぞきにきてみ」と言われましたが、ピアノ担当はもう何人もいて、私が入り込む余地はなさそうだったから、やめておいたのです。
実際に大学に在籍している私が参加していないのに、大学と関係ないクマさんが参加しているというのは、何ともおかしかったです。

クマさんの最大の特徴(?)は、約束をすっぽかすことでした。「BIG BOY」のシフトに入っていても、何の連絡もなく来ないことがしょっちゅうでした。
なにしろ昨夜はどこに泊まったのかも分からない、今みたいに携帯電話やスマホもない時代ですから、連絡のつけようがないのです。クビになりかけたことも何度もありますが、何日か音信不通であっても、また現れて、平然と働き続けていました。
このことから、「BIG BOY」の中では、約束の時間に現れないことを「シャケ行為」と呼んでいました。こんな感じで使うのです。
「○○が昨日、シャケ行為しよった!ずっと待っとったのに!!」

Monk's Dream(セロニアス・モンク)

Monk's Dream

私の大好きなセロニアス・モンクです。好きなアルバムはいくつもあるのですが、まずはこれ『Monk's Dream』をあげてみます。

モンクは40年代初めから活動を開始して、チャーリー・パーカーディジー・ガレスピーらと共に、ビ・バップの黎明期から活動をしています。ですが、私の個人的印象では、ビ・バップの創設者というには違和感があります。
やっぱりビ・バップというと、パーカーに代表されるスタイルかなと思うのですが、モンクはその時代の流れなど関係なく、オンリーワンな演奏を貫いてきて、ビ・バップ等のくくりで見ることができない感じなんです。

私の好きなモンクのレコードは、50年代後半から60年代にかけてが多いです。ビ・バップが一時代を終えた後のモンクです。
この『Monk'S Dream』も1962年の録音とのことです。

『Monk's Dream』(Columbia 1963年)
Thelonious Monk (p)
Charlie Rouse(ts)
John Ore(b)
Frankie Dunlop(ds)
【収録曲】
#1 Monk's Dream
#2 Body and Soul
#3 Bright Mississippi
#4 Five Spot Blues
#5 Bolivar Blues
#6 Just a Gigolo
#7 Bye-Ya
#8 Sweet and Lovely

なぜこの時代のモンクが好きなのかを、このアルバムを聴き返して考えると、ひとつはサックスのチャーリー・ラウズの存在でしょうか。
モンクはコルトレーンをはじめとして様々なビッグネームとも共演していますが、チャーリー・ラウズがベストバートナーだという意見は多いみたいです。

このアルバムの曲でまずいいな、と思うのは、「Five Spot Blues」「Bolivar Blues」ですね。
シンプルなブルースだと、モンク独特のタイム感やフレージングがいかんなく発揮されている感じです。

次にというか、一番好きな曲は「Just a Gigolo」です。
この曲はソロ・ピアノで演奏されています。ただ単に、私がソロピアノが好きだということも、あるかもしれませんが…。
ちょっと古い感じのストライド・ピアノのスタイルも現れて、なんとなく物悲しく、切ない感じの曲です。

私はこの曲が好きになって、オリジナルの曲を聴いてみたいと探しました。
ところが最初に演奏されたのは1929年とかいう、とても古い曲みたいなんです。
本当のオリジナルにはたどり着けなかったのですが、特にこの曲の有名にした演奏は、1956年にルイ・プリマが歌ったバージョンです。「I Ain't Got Nobody」とのメドレーになっていて、聴くことができました。
ところが、このルイ・プリマのバージョンは、なんというか、陽気な感じの演奏で、全然モンクの演奏と違うわけです。
そしてこのメドレーバージョンで、ヴァン・ヘイレンのボーカリストだったデイヴィッド・リー・ロスもカバーしています。

最初聴いたときは、ルイ・プリマやデイヴィッド・リー・ロスのバージョンに、正直がっかりしたのですが、何度か聴くと、この「Just a Gigolo」も好きになってしまいました。
やっぱり曲自体がいいのですし、ルイ・プリマやデイヴィッド・リー・ロスもいい感じです。
それにしても、この二人の演奏は、あまりにモンクの演奏とは違います。「Just a Gigolo」は「リリー・マルレーン」で有名なマレーネ・ディートリヒも歌っていて、これはモンクの演奏に通じるイメージがあります。
ただ、古い曲で多くの人が演奏してきたみたいなので、誰が誰の歌や演奏に影響を受けたのか、よく分かりません。
それだけ歴史のある曲だということでしょう。やっぱり、名曲だと思います。

この曲はモンクのライブも含めた他のアルバムにも収録されています。モンクもこの曲が好きだったみたいですね。

Blue Train(ジョン・コルトレーン)

Blue Train

ジョン・コルトレーン……人により 様々なイメージを持ち、好きなレコードも様々なミュージシャンじゃないかな、と思います。 実際、コルトレーンは初期から音楽スタイルを変え、最終的にはフリーフォームの前衛的な演奏にたどり着きます。

初期の方が好き、という人もいれば後期の方が、という人もいます。

私は、最初にコルトレーンを聴き始めたころは後期の前衛的でエネルギッシュな演奏が好きでした。
ですが、年を取ってくると初期の頃が好きになって、そのころの演奏にも後期の演奏につながる激しさを感じられるようになりました。
そうして初期のころのコルトレーンに惹かれるようになったのです。その代表的な作品がこれです。

 

『Blue Train』(Blue Note 1957年)
John Coltrane(ts)
Lee Morgan(tp)
Curtis Fuller(tb)
Kenny Drew(p)
Paul Chambers(b)
Philly Joe Jones(ds)
【収録曲】
#1 Blue Train
#2 Moment's Notice
#3 Locomotion
#4 I'm Old Fashioned
#5 Lazy Bird

私はこのレコードの中でも特に、「Moment's Notice」が好きです。
後年のフリーの演奏とは、当然のごとく全く違うのですが、その音使い、駆け上がるようなフレーズを聴くと、「もっと高く」「この場所から外へ」というコルトレーンの意識を感じます。後年のフリースタイルへの変化も、コルトレーンにとっては必然だったのかな、と感じます。

あと、好きなのは、やはりサックスの音色ですね。
これも後年の演奏に通じる、何というか…激しい音色というか…切り裂くような音色というか…う~ん、音色を言葉で表現するのは難しいですね。

曲もいいです。4曲目以外はコルトレーンの作曲です。トランペット・トロンボーン・テナーサックスの3管編成のサウンドもいいです。いいとこだらけです。
作曲に関しては、コルトレーンは後にスタンダードナンバーと言えるような作品を沢山残してます。

録音された時期は、マイルスバンドを抜けて(後に復帰しますが)、セロニアス・モンクと演奏を始めたころで、30歳か31歳くらいですね。
こう考えると、このアルバムを「初期」の作品というのは間違えかもしれません。サックスの音色に関しては、完全にコルトレーンの音色として完成されていると思いますし。
コルトレーンはこの後40歳で亡くなるまで、スタイルを変化させていくわけです。だから、感覚的に「初期」というイメージが、私にはついてしまっているのかもしれません。

 

1980年代、京都のジャズ喫茶(後編)

私は1980年代に京都で大学時代を過ごしました。その当時の京都には、まだまだジャズ喫茶が何軒もありました、私がよく利用したジャズ喫茶を、私の思い出を交えて紹介する記事の後編です。
なお、これらのジャズ喫茶は現在(2020年)、みな閉店しています。(RAGのみ移転)

RAG

北山通り、ちょうど今の地下鉄北山駅のあたりにありました。
壁に沿って木製の長~いベンチシートが置かれていました。 北山通りにあるせいか、ちょっとしゃれた感じで、いわゆる「アングラ」な雰囲気は皆無でした。
スパゲティが美味しく、時々食べました。ライブも時々やっていました。今も木屋町三条に移転して、営業を続けているようです。

バターカップ

すごくマイナーな店だと思います。 上賀茂の御園橋の傍、鴨川に沿った道にありました。
カウンター中心の、白を基調としたちょっと洒落た感じの店でした。 特にJAZZを売りにしているイメージではなかったので、ジャズ喫茶として記憶している人は、いないかもしれません(そもそも記憶している人もどれだけいるでしょうか)。
ここに行ったきっかけは、私がBIG BOYで働いていたバイト仲間兼、音楽仲間の友人が上賀茂に住んでいて、彼に連れていかれたのです。
最初に連れていってもらった時の理由が、「CDプレーヤーを入れた店がある!」でした。 すごい、過去の時代の話ですよね。 友人が興奮して、「バターカップにCDを聴きに行こう!」と誘ってきたのを覚えています。
アナログレコードからCDへ、変化が始まったころのことです。

JAM猫

木屋町にある、スナックやらが入っている雑居ビルの中にありました。
ソファがある、当時の私にしては、大人のお店という感じでした。だから、私一人で行ったことはありません。ここもBIG BOYで働いてたバイト仲間たちから誘われて行ったのです。
スナックみたいな店だったので、ジャズ喫茶に含めるのは違うかもしれませんが、仲間とはジャズを聴きに行きました。
この店に仲間と行くときの合言葉は「JAM猫に行って、レーザーディスクを見よう!」でした。この店は当時まだ普及し始めたばかりのレーザーディスクを入れてました。上賀茂バターカップのCDと同様に、時代を感じさせますね。レーザーディスクってわかりますか?今でいうDVDやBlu-ray みたいなものです。)
当時はレーザーディスクも出始めたころでした。まだそんなにソフトも発売されてなかった気がします。 JAM猫で何を見たのか覚えてないのですが、そんなにJAZZのソフトも充実してなかったと思います。
だけど、映像でジャズライブがみれて、それもその当時としては比較的大きな画面だったので、とにかくみんな興奮して見てました。

QUEST

木屋町から路地に入ったビルにある、カウンター中心の狭い店でした。
もう、暗くて、狭くて、汚くて、だけどレコードはカウンター後ろの棚にたくさん揃ってました。 喫茶というより、バーで、夜の店の香りがプンプンしました。
さほど通ったわけではないのですが、常連さんも多かったみたいで、不愛想なマスターでしたが、常連客との会話には応じていました。
私が学生時代を終えて京都を去った後、ここで紹介している店は次々と閉店したのですが、この店は随分長くやっていました。
2010年頃でしょうか、十数年ぶりに京都を訪れた時、この店が残っているのを発見し、感激して寄ったことがあります。 相変わらずのディープな雰囲気に圧倒されたのですが、なぜか壁に汚い字で「現在リクエストは受け付けていません」と書かれた紙が貼ってありました。だけど、特にかけているレコードにこだわりがある感じもせず、「どうしたのかな?」という印象を受けました。
ネットでQUESTの閉店を知ったのは、その数年後のことです。

北山通りのオーディオ喫茶(番外編)

ジャズ喫茶ではないですし、そもそも店の名前も忘れてしまったのですが、思い出深い音楽系喫茶店なので、私にとっては是非とも書きとめておきたい店です。
私が北山通りに住んでた頃、度々通った店で、「オーディオ喫茶」とでもいうのでしょうか、防音ガラス張りのリスニングルームがある喫茶店でした。
私はここに、自分の持っているレコードを持ち込んで、それを聴きなながら、一杯のコーヒーでずっと音楽を聴いていたわけです。 コーヒーもおいしかった記憶があります。
店もきれいで、マスターはスキーが好きなのか、スキーサークルのお知らせなどが店内に貼ってありました。
当時の私は極端にシャイで、人と話すのが苦手だったので、マスターとも挨拶を交わす程度でした。だけど、あまり混んでる店ではなかったこともあり、マスターとの会話はなくても完全に常連化していた気がします。
私が京都を出て数年後にはなくなっていたみたいです。リスニングルームがある風変わりな店で、だけどコーヒーがおいしく、だけどだけどマスターとの会話もなかったこともあって、逆に私にとって、北山時代の思い出に残る店になりました。

my-jazz.hatenablog.com

Waltz for Debby(ビル・エヴァンス)

ワルツ・フォー・デビイ+4

あまりにも有名すぎて、私がここでなにか語ることもない気がしますが、やはり大好きな1枚です。

スコット・ラファロとの共演

『Waltz for Debby』(Reverside 1961年)
Bill Evans (piano)
Scott LaFaro (bass)
Paul Motian (drums)

ベースはスコット・ラファロです。
エヴァンスは自己のトリオで、ラファロの死後、チャック・イスラエルや、エディ・ゴメスらをベースに迎えるのですが、このラファロとのトリオが一番だ、という声が多いです。私もそう感じてしまいます。

ですが、ラファロの良さもさることながら、エヴァンス自身も1958年にマイルス・デイビスのグループに参加した直後に組んだトリオでの演奏です。エヴァンス自身も、アイデアにあふれた絶頂期だったのではないのかな、と思います。

録音は、ニューヨークの有名なジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードで行われました。ジャズクラブなので、騒々しいわけではないですが、客席のざわめきやグラスの音などがかすかに聞えてきます。そんな雰囲気も、私がこの一枚が好きな理由でもあります。全く音楽とは関係ないのですが…。

リズムに乗り、歌い上げるエヴァンス

特に私が好きな演奏は、「My Romance」です。
リズムに乗って、グルーブして、歌い上げる。そのエヴァンスの素晴らしさが表れています。
エヴァンスには沢山の魅力があります。
その音遣いの素晴らしさを上げる人は沢山います。
私もそう思いますが、その音使い以上に、リズムというか、フレージングというか、「歌い方」というか、それが私にとって一番のエヴァンスの魅力なんです。

タイトル曲の「waltz for Debby」も始まりはとても美しい演奏ですが、三拍子からフォービートに変わった後が大好きです。リズムに乗って歌い上げるエヴァンス、素晴らしいです。

エヴァンスと「ビ・バップ」

もうちょっと音楽的なことも書いてみますね。

エバンスはマイルス・デイビスの『Kind of Blue』に参加していて、ライナーノーツも書いています。『Kind of Blue』はモードジャズを広めるきっかけになった録音とされていて、それもあってか、エバンスはモードジャズ黎明期の一人と言われることもあります。
確かにそういう側面もあるとは思いますが、エバンスの生涯にわたる演奏を聴くと、エバンスはあくまでもビバップに根差したピアニストだと感じます。

私がまだ若く、ジャズを聴き始めて1~2年のころにエバンスを聴いた時、「何をやっているのか分からない」と感じたのを覚えています。
今聴くと、さすがに「何やっているか分からない」状態ではないですが、その当時の私の感覚は今でも理解できます。
バップに根差しているのに、エバンスならではのフレージングや音使いが、若いころの私にはよく分からなくて、難解に聞こえたのでしょう。

 

The Köln Concert(キース・ジャレット)

ケルン・コンサート

私の大好きなミュージシャンの一人です。
耳に心地よいサウンドの作品が目立つこと、クラシックも演奏したCDも出していること、ビバップからは遠いイメージの演奏スタイルであることからでしょうか、好きな人は好きですが、興味のない人もいます。

そのキースのアルバムでまず、超有名、お勧めはこれ。

『ザ・ケルン・コンサート』(ECM 1064:1975年)
Keith Jarrett(pf)

知ってる人は「あぁ、これね」と言うでしょう。これをまず紹介した時点で、まずそれなのか、と異を唱えるジャズファンもいるかもしれません。それだけ、賛否(好き嫌い?)が分かれるCDです。
私が若いころJAZZ喫茶でバイトしていた時も、嫌いな人も割といて、ソロピアノということもあり、リクエストがない限りかけることはなかったです。

ライブ演奏なのですが、トータル60分以上、ソロピアノによる即興演奏です。
ジャズによくあるスタンダードを元にした即興演奏ではなく、完全なキースのオリジナル即興演奏です。

まずは、26分くらいあるpart1を、最後まで聞いてほしいと思います。聞き出した時点で、引き込まれてしまう人、「え?」と違和感を覚える人、色々だと思います。
ただ、私はやはりこの演奏は素晴らしいと思います。間違いなく、素晴らしい音楽だと思います。

ただ26分と長いため、途中で飽きてしまう人もいるかもしれません。曲を通しての抑揚、メリハリもあるのですが、聴きなれない人にとっては「長い」と感じるかもしれません。
しかし、構成や展開も含めて、即興で26分、これほど美しく力強い演奏を1人で行うキースには、本当に言葉を失います。

マイルス・デイビスのバンドに参加した後、キースは30歳頃ですから、まさに油の乗り切ったときでしょうか。演奏のタッチやフレージングには後の時代と比べて力強さがあり、若さを感じます。
私は、歳をとってからのキースのタッチが、より好きなのですが、若々しいこの時代はまた違った良さを感じます。力強さの中にも、後年にも十分に発揮されるピアニッシモでの繊細な音使いが、この頃から感じられます。

ちなみに『ザ・ケルン・コンサート』をレコーディングした頃、キースがいかに独自の路線を走っていたか分かる作品を一つを上げてみます。

『Death And The Flower(生と死の幻想)』(Impulse!:1975)
KeithJarrett(pf, ss, per) Dewey Redman(ts, per) Charlie Haden(b) Paul Motian(ds) Guilherme Franco(per)

これを聴くと、キースはオーソドックスなジャズを離れた曲目や、オリジナル曲、即興演奏が多く、従来のジャズの範疇に収まらない「変わったピアニスト」であったと言えそうです。
ソプラノサックスも吹き、かなりアバンギャルドな演奏もしています。

キースはアバンギャルドな即興演奏が好きなのかな、とか思ってしまいます。
だけど有名になったのは、メロディアスで抒情的な演奏なわけです。ですがそれはキースの一面であって、他の一面には激しく前衛的な香りがプンプンするのです。